知 床 旅 情

 新宿伊勢丹の残業の帰り
木枯らしの吹く中を
コートもなく、身を縮めながら

タカノあたりを歩いている時
街角のスピーカーから流れてきた

加藤登紀子の < 知床旅情

 なぜか・・・沁みてくる。
立ち止まり、最後まで聞いて
ちょっと胸を張り
新宿駅東口にむかって
また歩きだす。

新 宿 東 口 

 新宿駅東口を出た
通風塔のための緑地の所に
フーテンと称する小汚いカッコウをした

若者がたむろしていた。

 中にはシンナーを入れたビニール袋を
口にあて、スーハーやってる奴もいる。
そんな間に入って緑の上に寝っころがり
ビルの谷間の空を見上げると
自由なような、孤独なような
妙な気分・・・。

 土曜の夜は駅地下の広場で
ベトナム反戦フォーク集会が
開かれてて、若者の熱気でいっぱい。

 フーテンやヒッピー、サイケデリック
アングラなんていうのは
新宿という街によく似合ってた。

 新 大 久 保

 新宿歌舞伎町の奥、コマ劇場裏あたりに
エリート > っていう喫茶店があった。

美術専門学校へ進んだ高校の同級生
セオとハヤシがそこでアルバイトをしてて
そこから歩いて10分ほどの
新大久保の木造アパートに住んでいた。

 ときどき、東京に出てきている何人かが
彼等の部屋に集まり
とりとめのない話をしながら
夜明けまでグダグダ過ごすのが
ささやかな楽しみ。
 共同トイレ、共同炊事場の古くて暗くて
狭い部屋だけど、住み込みのボクから見れば
自由の別天地。

 青春、っていう言葉を聞くと
ここでの情景が浮かぶ・・・・
ここでは背伸びしなくってよかったからね。

昭和の子供たち・やよい町15番地