赤 玉 ポ ー ト ワ イ ン

棚の上に赤い液体の入ったビンがあった
赤玉ポートワイン > って書いてある
コッソリ飲んでみると
風邪ひきの時にもらう
赤い水薬みたいな味がして
スッゴク おいしい

チビリチビリ 飲んでるうちに気持よくなり
火鉢の上に乗っかって
お尻を温めながらウツラウツラしてたら・・・
トーチャンに見つかり
バカヤロー! って引っ叩かれ
赤玉ポートワインを窓から用水に放り投げ
なんであんな所に 置いておくんだー!と
カーチャンを怒鳴りつけていた

後年、オジチャンから聞いた所によると
トーチャンたち兄弟は
酒で身上をつぶした親のせいで
ずいぶん悲惨な苦労をしたらしい
トーチャンが満州へ出奔したのも
それが原因だった
トーチャンたち兄弟は酒がトラウマに
なってしまっていたんだ

お 好 み 焼 き

寒い季節になったら、みんなが集まるのは
奥にお好み焼きの小さなテーブルが一台あった
惣菜屋さん
キャベツだけ入った溶いた小麦粉を焼き
その上にソースを塗り、魚粉や粉海苔をかけるだけ
一枚 10円だったと思う
それを2〜3枚たのんで
みんなで分け、チマチマ食べる
温ったかいし、ハイカラだし
居間にあるテレビだってのぞける
シーホーク っていう冒険映画や
ノートルダムのせむし男 もここで観た
直径15cmほどの お好み焼きを 時間をかけて
ソースを塗って焼き、塗って焼き、塗っては焼き
ソースのほうが本体より厚いんじゃあないか
というほどくりかえし・・・
オバチャンに
 < ソースと海苔つけ過ぎや! >
< 食べたらさっさと帰ろっ! >
いっつも文句言われながら
何時間でもそこで居座っていた
特に天気の悪い日曜日は昼から夕方まで
どうでもいい話をして鉄板の前で過ごす

傷 痍 軍 人 さ ん

毎年、年末近くになるとト-チャンは
ボクと弟を連れてタカマチへ行く
( 駅近くの繁華街 )
駅の近くには、粉雪の降る寒い中
軍帽にサングラス、白衣
アコーデオンで軍歌を唄い
赤十字のマークの入った箱を置いて
施しを受けている傷痍軍人が必ずいた
(戦争で障害者になった元軍人さん)
ト-チャンはそんな人を見つけると

 どこの部隊にいたんだ?
 どこでやられた?

しつっこく聞く
悪気はぜんぜんなくって
同情してるんだけど
傷痍軍人さんはすっごく迷惑そう・・・

後に、国から戦傷の保証のない
在日の人たちが多かった
ということを知って
申し訳なく深く反省
しつこいけど トーチャンには
悪気は全然なかった

雪 の 夜

人の足音も聞こえなくって
まわりの家の生活の音も無い・・・
気味悪いほど静かな夜
トーチャンが
< 風呂へ行ってこい >  って言うので
風呂道具を持って玄関をあけたら
音をすいこんでシンシンと
雪が降りつもっていた

< トーチャン!、雪、すっごくつもっとるよ!>
奥にむかって、大声で言っても
< おぅ、そうか・・・>  だけで
期待した返事が返ってこない

しかたなく、長靴をはいて傘をさし
< サッムイ!サッムイ!> と叫びながら
日の出湯にむかって歩きだす

昭和の子供たち・やよい町15番地